任意保険は,法律による規制が緩和されて以来,契約内容の基本となる約款が日々変更されてきていますが,近時非常に注目されているのが,弁護士費用補償特約,人身傷害補償保特約,無保険車傷害補償特約 です。
そして,これらの保険内容は,任意保険契約者にとり,非常に便利,かつ,お得な制度ですので,ぜひ,皆さん,知っておいてください。
1 弁護士費用補償特約(以下「弁護士費用特約」と略)
従来,任意保険では,加害者側の立場として弁護士に依頼する場合の弁護士費用は,任意保険会社が負担していましたが,被害者側の立場として,自身の損害につき,加害者に賠償請求する場合についての弁護士費用は負担していませんでした。
結果,事故で発生した損害の金額があまり大きくない場合や,自身で弁護士費用を負担することが困難な場合においては,「弁護士を依頼してまで争っても価値がない」として,弁護士に依頼することなく,また,裁判などもすることなく,自身の納得しきれない条件(最終的な支払金額や過失割合)で,示談に応じざるをえなかったというケースもあったと思います。
しかし,そのような契約者の不満に対応しようと,任意保険会社が,被害者側の請求についても,弁護士費用を負担しましょうというのが,「弁護士費用特約」になります。
ですので,弁護士費用特約があり,それを使用できるようなケースでは,弁護士費用のことは気にせず,弁護士に依頼したり,最終的に裁判などで決着をつけてもらうことができます。
具体的には以下のイメージですので,ご参考にしてください。
記
・以下の条件をモデルケースとして検討
相手からの示談提示額 50万円の支払い
裁判などで認められる金額 60万円の支払い
裁判をした場合の弁護士費用 約20万円(旧日弁連の報酬基準で算定)
・弁護士費用特約がない場合
弁護士に依頼した場合の自身の手元に残る金額が,約40万円となり,弁護士に依
頼したほうが,自身の手元に残る金額が少なくなってしまう。
・弁護士費用特約があり,任意保険会社が弁護士費用を負担する場合
弁護士費用は,任意保険会社が負担するので,裁判で認められる金額60万円がそ
のまま自身の手元に残る。
つまり,弁護士費用特約があった場合,相手からの示談提示より,10万円の利益
があったことになります。
以上
なお,この弁護士費用特約については,任意保険会社が負担する弁護士費用の金額の上限があり,その上限が300~500万円程度(契約内容により決定される)のケースがほとんどかと思います。
ただ,その金額を超えるような事案はほとんどないでしょうし,あったとしても,そのような事案の場合は,裁判をした場合,加害者側より賠償額の10%程度の弁護士費用をとることができるケースがほとんどでしょうから,弁護士費用特約の金額の上限はそれほど意識する必要はないと思います。
2 人身傷害補償特約(以下「人身傷害特約」と略)
自身にお怪我のある被害事故の場合,加害者側が任意保険に加入していれば,加害者側の任意保険会社が治療費などの支払いをしてくれるケースがほとんどでしょう。
ただ,加害者側が過失につき,こちら側の過失が極めて大きいというような主張をする場合は,加害者側の任意保険会社が治療費の支払いをしてくれないケースもあります。
(そのような場合,たちまち治療費の支払いに困ることになりかねません)
また,交通事故において,加害者側に損害賠償請求できるのは,発生した損害額全額ではなく,発生した損害額のうち,加害者側の過失割合に相当する部分のみです。
少しわかりにくいので,金額を例示すると以下のとおりとなります。
記
・交通事故により発生した損害額(モデルケース)
治療費 50万円
休業損害 200万円
慰謝料 150万円
後遺障害による逸失利益 500万円
後遺障害の慰謝料 300万円
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総損害額 1200万円
・相手から損害賠償を受けることができる金額
=総損害額1200万円×加害者の過失割合
となります。
つまり,具体的には,
・過失割合が,「加害者10:自身0」の場合は
1200万円 ×10割=1200万円
と総損害額1200万円全額の賠償を受けられますが,
・過失割合が,「加害者6:自身4」の場合は
1200万円 × 6割= 720万円
の賠償しか,加害者からは受けられません。
・さらに,過失割合が,「加害者1:自身9」の場合は
1200万円 × 1割= 120万円
の賠償しか,加害者からは受けられず,非常に困ります。
以上
また,最悪の場合,加害者側が任意保険に加入しておらず,かつ,資力がない場合には,加害者から損害賠償を受けられないケースさえあります。
このような場合に,自身の過失割合にかかわらず,自身に発生した損害の回復を,「早期に」「確実に」図りたいという,任意保険契約者のニーズに対応するための保険が「人身傷害特約」です。
つまり,人身傷害特約を契約につけていると(人身傷害特約は,任意保険の特約としてつけられるものです),
1 加害者の任意保険会社が,早期の支払いを拒んだ場合でも,自身が契約する任意保
険会社が支払ってくれるので,治療費の早期確保に役立つ。
2 自身に過失がある場合でも,加害者に請求できない自身の過失割合部分まで,自身
が契約する任意保険会社が支払ってくれるので,総損害額の回復に寄与する。
というメリットがあります。
ただし,正確に言うと,人身傷害特約は,総損害額の算定方法が契約により決定されていますので,人身傷害特約で支払われる総損害額は,裁判などで認定される金額とは異なる(各損害項目につき認定される金額が,裁判などでの認定額より低くなるケースが多い)ケースがあります。
また,人身傷害特約には,補償の限度となる金額が設定されていますので,その金額を超える部分は補償されません。
3 無保険車傷害特約(以下「無保険車特約」と略)
加害者側に損害賠償に対応できる「保険」がない場合,加害者側にいくら賠償義務があることが明らかであっても,加害者側から損害賠償金を実際に受け取るのが,困難なケースがあります。
このような場合,物損部分については,自身で契約する車両保険があれば,車両保険を利用して,自身が契約する任意保険会社に請求することができますが,人身部分については,自身で契約する任意保険会社では対応できないということがありました。
しかし,車両よりも大切な,お体(ひいては最悪の場合「人の命」)の補償が受けられないのは,大変なことです。
そこで,そのように,加害者が「無保険」(自賠責保険に加入していても,任意保険に加入していない場合はこの場合の「無保険」にあたります。また,任意保険に加入していても,何らかの理由で事故をおこした車両につき,任意保険を利用できない場合も,この場合の「無保険」に該当します。)の場合に,自身が契約する任意保険会社に,加害者が負う損害賠償金の支払義務を支払ってもらえるのが,「無保険車特約」になります。
ただし,無保険車特約が使用できるのは,人身損害部分のみです。
(さらに,正確にいうと,自賠責保険(または,自賠責保険に加害者が加入していない時に使用できる政府保障事業により支払われる金額)の範囲を超える部分のみです。)
また,人身損害があっても,「死亡」または「後遺障害」という重大な損害が発生した場合のみが,無保険車特約の対象となりますので,「お怪我はあるけれども,後遺障害はなかった」という事案では,無保険車特約を利用することはできません。