1 弁護士と相談→方針決定
「破産」,「個人再生」と同じですが,原則として事務所に来ていただき,弁護士と面談していただ
きます。
逆にいうと,とくに方針が決まってなくても,債務の状況とご希望をお聞きするなかで,「破産」,
「個人再生」,「任意整理」の3つのなかで,最終方針を決めていただくことも可能です。
面談時に必要なものは,以下のものです。
・「借金」等債務の内容がわかる資料(ない場合は簡単な借入先のメモでも可)
例えば,「請求書」,「裁判所等の手続きの書類」,「クレジットカード等のカード」等
・ご本人確認資料(免許証やマイナンバーカード等)
ご依頼いただく際には,ご本人確認をさせていただく必要があります。
・認め印(「シャチハタ」式のものは不可)
ご依頼いただくときには,「委任状」を作成していただきますので,認め印が必要です。
ご相談時に,「債務の内容」や「ご本人の生活状況」等を聴き取り,さらに,「ご本人の希望」も確
認したうえで,債務整理の方針として,上記のいずれかを選択するのかを決定します。
2 任意整理を選択するケースはどんな場合か(その前提として,各手続きの特徴)
ここまでは,「破産」も「個人再生(個人再生の場合,住宅ローンがあれば,その資料も必要)」も
同じです。
では,「破産」,「個人再生」,「任意整理」それぞれの特徴,そして,メリット・デメリットは何
なのでしょうか。以下,当職が考えるものを列記します。
(1)手続きの特徴
破産 裁判所の手続きで,債権者(全債権者に対し行う必要あり)に対し,強制力あり
個人再生 裁判所の手続きで,債権者(全債権者に対し行う必要あり)に対し,強制力あり
任意整理 裁判所を通ず,債権者と個別に交渉する手続きで,債権者(相手を選択して行うこと
も可能。逆にいうと,「特定の債権者を任意整理の対象から除外する」ことも可能)が
応じない可能性もあり
(2)返済額
破産 免責決定を受ければ,基本的にゼロ
(但し,財産の清算価値が99万以上あるケース等は,管財事件となり,財産を換価して
配当する場合はあり)
個人再生 「再生債権の残高の1/5か100万か多いほう」←詳しくは「個人再生」の項目参照)」
か「財産の清算価値」の多い方の金額を3年間で弁済(その残余は免責)
任意整理 債権者との交渉次第であるが,基本的に元金残高からの減額は困難
将来利息はカットして,3~5年で分割弁済を目指す
(但し,近時は,債権者の対応が厳しくなっており,上記のような内容で合意すること
が以前ほどスンナリと進まない可能性があります)
(3)メリット
破産 上記のとおり,返済が不要(除く配当)で,原則,短期間に手続きが終了
個人再生 破産の次に返済額が少なくて済む。
自宅を残したい等の希望がある場合は,条件によっては残すことが可能
返済能力があれば,高級な自動車等の財産も残すことができる可能性あり
任意整理 特定の債権者を個別に選んで,手続きができる。
裁判所を通さず,官報にも掲載されないので,手続きをしたことがほかの人に知られ
にくい。
将来利息がカットできれば,分割弁済計画にめどがつきやすい。
←「将来利息」をカットできることが任意整理の最大のメリットです。
例えば,200万の借金があり,利息を15%とすると,利息だけで年間30万です。
つまり,毎月2.5万支払っても,1円も借金の元金は減りません。
一方,将来利息がなくなり,元金だけ弁済していくとすると,毎月4万支払えれ
ば,200万の債務があったとしても「50回の分割支払い」で完済できます。
(4)デメリット
破産 破産者名義の財産は,原則として,換価して配当に回す必要あり
但し,合計99万までの財産は残せる可能性が高い
(よほど高級なものでない限り,家財道具,電化製品などはほとんど残せます。
自動車も数十万円程度までは残せる場合があります。ただし,財産が一定額以上ある
と管財事件となります。)
官報に破産手続きをしたことが公示されるので,破産した事実が周囲に知られる可能
性あり
免責決定が得られるまでは,資格制限がされる職業あり
個人再生 官報に個人再生手続きをしたことが公示されるので,個人再生した事実が周囲に知ら
れる可能性あり
認可決定が得られるまでは資格制限がされる職業あり
弁済額が多額になるとその負担は結構重い
任意整理 返済の負担がかなり重い場合がある
結果,返済計画の合意が債権者とできても,その計画とおりの返済ができず,支払い
の途中で破産や個人再生にならざるを得ないケースもあり
→二度手間や費用が別途かかることあり
信用情報に登録される関係で,後日,任意整理の対象外とした金融機関からも取引を
停止される可能性あり
なお,すべての手続きにつき,手続きを開始した時点で信用情報に登録されることは一緒です。
よって,どの手続きをとっても,新たな借入やカード作成は一定期間できないとお考えください。
3 任意整理を選択するケースはどんな場合か(当職の考え)
当職は,基本的に,弁護士側から「任意整理」をお勧めすることはなく,可能な限り,「破産」か
「個人再生」をお勧めしています。
理由は,次のとおりです。
・ 上記のとおり,それぞれの手続きのデメリットの最大のものは,「今後,これまでと同様に
借入やカードの枠内利用ができなくなる」です。
とすると,その手続きをとる債務者にとり,一番,負担の少ないものから手続きは選択すべし
と考えます。
よって,1番目に「破産」,2番目に「個人再生」
その両者に支障がある場合に初めて「任意整理」を検討するという考えになります。
・ 「任意整理」は負担が大きく,失敗される方もおられる。
→これまで,「何とか資金が回っていた」と考える方も,実は,「カードの枠内で再利用」等
をしていて,いわゆる「自転車操業」の方も多いです。
この「自転車操業」ができなくなった場合の返済原資の調達は結構大変で,その実現には強
い意思と安定した収入が必要です。
そして,失敗した場合は,結局,「破産」や「個人再生」の手続きをとる方も多く,そのよ
うになると,「費用も二重にかかること」,「債務整理の最大の目的である『経済的な更生』
が遅れること」となります。
以上の前提でも,任意整理を選択せざるを得ない方は以下と考えます。
(1)住宅ローンがあるが,個人再生の条件に合致せず,自宅を残すためには任意整理しか方法がない方
←個人再生の住宅ローン特則には利用に条件があります。
例えば,「住宅ローンの対象が『自宅』と評価できない場合(別荘や店舗兼住宅で1/2以上が店
舗である場合)」,「自宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合」等です。
(2)個人再生を希望するが,返済能力がないという判断がされてしまい,任意整理しか方法がない場合
←「個人再生」の項目で説明しましたが,「個人再生」の認可につき,裁判所が一番注目してい
るのは「再生計画に従った返済をする能力があるのか否か」です。
よって,裁判所が「再生計画に沿った形で返済能力がない」と判断した場合は,個人再生は認
可されません。
その場合でも,任意整理は相手の債権者と合意ができれば,進めることは可能です。
但し,実際には,債権者と合意できたとしても,その後の返済の実現に疑問があることは確か
です(元金を減額できるはずの個人再生でも返済が厳しいという判断がされるのに,任意整理で
は余計に厳しい)。
(3)資格制限の対象となるので,どうしても,破産や個人再生の手続きがとれない方。
←債務整理は,債務者の「経済的な更生」を目指すものです。
そして,債務者の「経済的な更生」には,「出」である「債務の弁済を減額する」も大切です
が,一方で「入」である「収入を確保する」ことも大切です。
つまり,債務整理をすることで「入」の素である「仕事」を失うことは本意ではありません。
よって,その場合は,任意整理となる場合があります。
(4)財産が結構ある方(例えば,「退職金が多額にあると見込まれる方」や「自宅があり,ローンがあ
っても,『自宅の価値』-『ローン残高』の余剰額が多額になる方」
←「破産」でも「個人再生」でも,手続き時点の財産の清算価値分の支払いは求められます。
そのなかで,盲点となるのは,退職金です。
なかには,「1000万」単位の退職金のある勤務先にお勤めで,その1/8や1/4に減額したとして
も,結構な金額になる方はいらっしゃいます。
また,自宅にローンの抵当権があっても「『自宅の価値』-『ローン残高』の余剰額」は清算
価値となります。
これらの金額を計算したとき,「個人再生」が返済能力がない関係で認可が見込めなかった
り,「破産状態にない(原則として,「財産」<「負債」)と判断されて,破産できない」方が
います。
このような場合は,任意整理しか債務整理の方法はありません。
(逆にいうと,自宅を処分したり,退職して退職金を受け取ったら,債務の清算はできるのです
が,それを良しとせず「任意整理をすることで,自宅を残したり,退職を回避する」ということ
です。)
以上
4 受任した後の流れ
(1)受任(弁護士に事件の処理を委任すること)→「受任通知」発送
破産事件を弁護士が受任した場合,まずは各債権者に「受任通知」を即発送(原則)します。
この「受任通知」は弁護士が「債務者の代理人として破産手続きに入ることになったこと」をお知
らせし,「今後は債務者本人でなく,代理人である弁護士に対し連絡をするように」と依頼する文書
です。
この文書が届けば,通常の債権者は,債務者本人には連絡しなくなります。
また,この連絡以降は,「各債権者への弁済はストップ」させます(逆に弁済してしまうと,「任
意 整理」の対象となる債権額も確定できませんので,手続きを進める上でマイナスとなります)。
よって,この段階で,債務者は,これまで苦しんでいた債務の弁済に追われることがなくなりま
す。
つまり,弁護士に委任した段階で,ある意味,「債務の苦しみから逃れることができる」のです。
このメリットは,「絶大なもの」といえると思います。
ですので,受任通知は原則として「即」発送します(但し,いろいろな前提条件により,発送の時
期をずらすこともありえます)。
(2)各債権者ごとに返済計画を提示して交渉
原則として,将来利息をカットした形での分割弁済の交渉をします(近時,元金のカットは極めて
困難です。また,将来利息さえ,「カットできない」と言い出している債権者もいます)。
返済回数は,原則として3年間36回が基本ですが,最大で5年60回程度まで許容してくれる債権者も
います。
但し,交渉に強制力がないのが,任意整理ですので,債権者によっては,上記の条件での交渉がま
とまらない場合もあります。
(3)各債権者ごとに返済契約書を作成
返済契約書は,弁護士と債権者の間で締結し,締結した後の文書を債務者本人にお渡しします。
(4)返済契約書に従い,債務者本人がご自身で弁済
当事務所の方針として,債権者と返済契約をした後の返済については,原則として,債務者ご本人
にしていただいています(弁護士事務所の中には,債務者から一括で資金を預かって返済まで管理す
るところもありますが)。
その理由は,当職が行う場合,当職にお金を預けたうえで,当職から各債権者に振込等して,支払
うことになります。
しかし,その場合は,当職が業務として行う以上,振込ごとに手数料を頂戴することになります
(返済まで担当する事務所では返済1カ月ごと,返済1債権者ごとに手数料をとるところが多いです)。
よって,できるだけ,経費をかけずに支払いを続けていただくために,ご本人から直接,債権者に
振込していただくようにしています(経済的な更生が目的の債務整理では,債務者ご本人の負担をで
きるだけ少なくすることが大切と考えています)。
(5)返済契約書に従い,完済して終了
上記のとおり,返済契約書が締結された後は,債務者ご本人に対応していただきますので,完済し
た時点では当事務所は関与しません。